【コラム】香港の学生たちと歩くランタオ島フィールドワーク

先日、香港のある大学の地理・資源管理学科が実施する現地調査に特別参加する機会があった。今回のフィールドワークを率いていたのは、かつてオーストラリアの学会で知り合った同世代の香港人女性教授である。研究分野の縁から招待を受け、同行することとなった。およそ50名にのぼる香港の大学生たちと共に、ランタオ島(大嶼山)の中部を巡り、斜面・河川・海岸の地形を観察した一日は、大学時代を思い出させるほど懐かしく、同時に新鮮な体験であった。「子ども世代」と言っても差し支えない若者たちと久々に行動をともにし、不思議なタイムスリップを味わうようでもあった。

朝から始まった長いフィールドワークが終盤にさしかかるまで、多くの学生はなかなか話しかけてこなかった。どうやら私をスタッフの一員だと思っていたのか、質問や会話を試みる学生はほとんどいなかった。ところが、最後の行程となる河口付近に着いたところで、一気に状況が変わった。生まれて初めて目にするマングローブ林に惹かれ、セルフィーを撮ろうと苦戦していた私に、ある学生が「写真を撮りましょうか?」と声をかけてくれたのだ。そのひと言によって一瞬にして距離が縮まり、「マングローブを実際に見るのは初めてなのか」「韓国や日本にはこういう林があるのか」と次々に質問が飛び交うようになった。写真を撮るという些細な行動が、互いの文化への興味を引き出す場面になったことは、非常に印象的であった。

さらに、近々日本を訪れる予定がある学生もいて、ネット上の噂で「今月か来月に大地震が起きるかもしれない」と読んで不安になっているという。自然災害はいつ起こるか分からないが、「心配しすぎて旅行そのものを取りやめれば、学びや経験の機会を失うかもしれない」と伝えると、彼らは納得したようであった。リスクよりも、現地で得られる学びや思い出を大切にしようとする姿勢が頼もしく映った。

もちろん、このフィールドワークの主目的は地形学的な現地調査であり、山や川、海辺を歩いて香港特有の地形を観察することであった。しかし、香港人教授の家に滞在し、学生たちと身近に交流するうちに、香港という都市が抱える日常や文化へと理解が深まる感覚があった。若い世代が「物価の高さ」や「就職の厳しさ」に悩むのは、日本や韓国とも大きく違わない。さらに香港はグローバル都市であるがゆえに海外から優秀な人材が集まりやすく、地元の学生には一層厳しい競争が待ち受けているという話も興味深かった。

香港が今後どのような変化を迎えようとも、そこで暮らす若者たちがどのように未来を切り拓いていくのかは、実に興味をそそるところである。彼らが持つ比較的オープンな態度と、静かながらも確かな好奇心は、旅行やフィールドワークなど実践的な場面でこそ大きな力を発揮するように思われる。マングローブの前での些細なやりとりが無数の質問へとつながったように、こうした出会いは自然に広がっていくに違いない。

私としては、香港の学生たちが今後も独自のやり方で成長し、新しい試みにも心を開きながら、この都市の魅力をいっそう豊かにしてくれることを願っている。短いながらも共に過ごした一日は、風景や人々との対話を通じて得た刺激に満ちており、これからも長く心に残るだろう。

ソン ウォンソ(Wonsuh Song, Ph.D.)
秀明大学 専任講師 / NKNGO Forum 代表

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