あさがおの会設立の背景
2003年、あさがおの会が誕生した。当時、同じマンションに住む住民たちが集まり、横田滋さん・早紀江さん夫妻を支援するために結成されたものだ。夫妻が北朝鮮によって拉致された娘・めぐみさんを取り戻すために活動している姿を間近で見ていた住民たちは、何か自分たちにもできることがないかと考えていた。最初は個人的に街頭署名活動を始めたが、その後、マンションの管理組合と自治会が中心となり、多くの住民が参加する団体へと成長した。
森聡美会長は「当時は横田夫妻が非常に忙しく、顔を合わせる機会は少なかった。報道でお二人の姿を目にすることが多かった」と語る。
名前「あさがお」に込められた思い
「あさがおの会」という名前は、めぐみさんが曽我ひとみさんに贈った押し花から着想を得ている。めぐみさんが好きだった花であり、早紀江さんの兄が毎年あさがおの種を集め、花を咲かせていたことが由来だ。今でもマンションの住民たちは毎年あさがおを植え、めぐみさんを思いながらその花を育てている。
写真展「めぐみちゃんと家族のメッセージ」
あさがおの会で行ってきた活動の中で最も印象に残るのは、2005年から始まった写真展「めぐみちゃんと家族のメッセージ」だ。最初に写真展を提案したとき、滋さんは「他人が家族写真に興味を持つわけがない」と疑問を持っていた。初めてマンションのお祭りで写真展を開くまでに時間がかかったが、実際に開催してみると大きな反響があった。これにより横田夫妻は、自分たちの活動が多くの人に知られるきっかけとなり、写真展はその後も全国各地で開かれ、さらにジュネーブやニューヨークでも開催されるようになった。
この写真展を通じて伝えたいのは、拉致問題は遠い話ではなく、「自分の家族にも起こり得ること」ということだ。写真展に来た人たちは、横田家のアルバムを見ることで、自分自身や家族と重ね合わせ、拉致問題について考えるきっかけを得ている。
VR写真展やデジタル活動の効果
2006年からはWEB上でのVR写真展も実施され、若い世代にも拉致問題を知ってもらうための重要な手段となっている。さらに、2017年からは、駅や役所などの公共の場でデジタル写真展やポスター、タペストリーを使った展示も行われるようになった。「駅や公共の場で行われる写真展は、会場まで足を運ばなくても通勤や通学の途中に見てもらえるため、全く関心のなかった人にも拉致問題がまだ解決していない現実を伝えることができる」と森会長は説明する。
国際的な取り組みと成果
あさがおの会は、日本国内だけでなく、国際的にも拉致問題解決を訴え続けている。アメリカや中国の大使館を訪問し、ジュネーブやニューヨークで写真展を開催。特にジュネーブでの展示では、国連の特別調査官と面談する機会を得た。また、ニューヨークでは「ABDUCTION」というドキュメンタリー映画の監督夫妻を招き、映画上映と講演会を開催するなど、拉致問題への国際的な理解を深める活動を行っている。
森会長は、近年特に意義があったと感じる活動の一つに、韓国大使館でジョイントコンサートを実現できたことを挙げた。「具体的な効果を直接語ることは難しいが、国際社会の理解を得ることは拉致問題の解決にとって不可欠だと考えている。韓国と日本の関係は必ずしも良いとは言えないが、当時の尹大使から「拉致問題解決に協力していきましょう」と声をかけられたことは非常に意義深いと感じた」と話す。
今後の展望と課題
拉致被害者やその家族が高齢化している現状の中、支援者もまた高齢化が進んでいる。大規模な写真展の開催は現実的に難しくなっているが、広告媒体を活用した写真展はその代替手段として今後も強化される見込みだ。さらに、めぐみさんの同級生でプロのヴァイオリニストである吉田直矢氏による「響」というコンサートも力を入れていく予定だ。このコンサートでは、吉田氏の演奏に合わせて、めぐみさんや横田夫妻の活動を映像で紹介する計画だ。
次世代へのアプローチ
拉致問題を次世代に伝えるために、森会長は「個人的な意見だが、拉致問題がなぜ起きたのか、その背景にある朝鮮戦争や世界平和の重要性について、そして日本が過去に行った戦争でどのようなことを行なったかを正しく認識できる教育が必要だ」と語る。拉致問題を単なる過去の事件としてではなく、歴史や国際問題と結びつけて若い世代に伝えていくことが重要だと考えている。
横田夫妻との思い出とメッセージ
長年、横田滋さん・早紀江さん夫妻を支えてきた森会長にとって、滋さんがめぐみさんとの再会を果たせないまま亡くなったことは、活動の目的が半分しか達成できなかったことを意味する。「早紀江さんがご存命のうちに再会が実現できるよう、国民全体で声を上げることが必要だ」と訴える。
森会長が感じること
長年にわたりあさがおの会の活動を続けてきた森会長は、「この活動を通じて、多くの人と出会い、経験できなかったことを経験することができた。それは人生を豊かにしてくれた」と振り返る。しかし、同時に「どれだけ活動をしても、めぐみさんが帰国していない現実に無力感を感じることも多い」と語る。
最後に、森会長は「あさがおの会のウェブサイトをぜひ訪れて、拉致問題がまだ解決されていないことを忘れないでほしい」とメッセージを送っている。
ソン ウォンソ
