アメリカ地球物理学連合(AGU)は、毎年25,000人以上が参加する「Fall Meeting」を主催する、世界最大級の地球科学分野の学会である。その成功の背景には、卓越した組織力だけでなく、スタッフによる細やかな配慮と協力がある。AGUのリーダーシップおよびガバナンス担当副会長であるシェリル氏へのインタビューを通じて、学会運営の新たなモデルが見えてきた。
AGUのスタッフは、ボランティアとして働く教員や研究者に対する配慮とサポートを徹底している。シェリル氏は、「私たちの役割は、ボランティアリーダーが成功できるよう、必要な情報を適切なタイミングで提供することです」と語った。AGUでは、指示を出すだけでなく、「困難な点はありますか?」「どうサポートできますか?」といった質問を最初にすることが習慣化されている。
このようなアプローチは、ボランティアに対する尊重を示し、参加意欲を高める効果がある。シェリル氏は、「依頼する前に、まずはボランティアの状況を確認し、サポートを申し出ます」と述べた。これは、他の学会に多く見られる教員への負担が過重になるケースとは対照的で、AGUのサポート体制は教授陣のストレスを軽減する役割を果たしている。
AGUの効率的な運営は、明確な役割分担と体系的なプロセスに支えられている。シェリル氏は、「スタッフは細かい運営業務を担当し、ボランティアは戦略的な意思決定に集中できます」と説明した。
AGUでは、会議の計画が8週間前から始まり、資料は6週間前に整備される。「最終パッケージは2週間前に送付します。このスケジュールにより、参加者は十分な準備を持って会議に臨むことができます」とシェリル氏は述べた。さらに、アジェンダの構成にも工夫があり、集中度の高いセッションの後には休憩を入れるなど、参加者の体調を考慮している。
AGUでは、スタッフと科学者が対等に協力するパートナーシップモデルが確立されている。「スタッフは運営の専門家、科学者は学術的な視点を提供します。両者の協力が、AGUの戦略目標を達成するために不可欠です」とシェリル氏は強調する。
また、スタッフとボランティアの関係構築が重要視されている。「関係が悪化すると、業務が遅延する可能性があります。私たちは、頻繁にコミュニケーションを取り、互いの意見を尊重するよう努めています」と述べた。これは、日本の学会で見られる教授とスタッフの連携不足とは対照的である。
AGUのスタッフは、ボランティアの時間と労力を尊重し、彼らが意味のある形で参加できるよう調整している。「ボランティアが自分の貢献を実感できることが大切です。参加が難しい場合は、正直に話すように勧めています」とシェリル氏は述べた。

このアプローチは、ボランティアの士気を高め、フラストレーションを軽減する効果がある。AGUでは、ボランティアの状況に合わせてサポートを調整し、負担を減らす努力を惜しまない。「困難を感じた場合には、期待を調整し、代替案を提示します」と語った。
AGUは、変化に柔軟に対応し、継続的にプロセスを改善している。シェリル氏は、「時には飛行機を飛ばしながら組み立てるような感覚です」と笑いながら語った。この柔軟なアプローチにより、AGUは新たな課題に対応し続けている。
「まずは最も重要な問題から取り組み、その後に再評価を行います。進展することで、他の問題も自然に解決されることがあります」とシェリル氏は説明した。この段階的なアプローチは、AGUの持続可能な運営を支える重要な要素だ。
AGUの運営モデルは、日本やアジアの学会が抱える課題解決に役立つ示唆を提供する。多くの学会では、教授が研究、教育、学会運営までを担当し、負担が大きくなっている。AGUのように、スタッフが運営業務を担当し、教授やボランティアが戦略的な業務に集中できるようにすれば、効率が向上し、参加者の満足度も高まるだろう。
シェリル氏は、「教員は研究と教育に集中するべきです。事務業務はスタッフが担当し、ボランティアには専門性を発揮できる役割を与えるべきです」とアドバイスした。
AGUの成功は、配慮に基づく文化、明確な役割分担、そして効率的な計画に支えられている。スタッフとボランティアの強みを尊重し、協力する体制は、他の学会が参考にできる持続可能なモデルとなっている。
シェリル氏は最後に、「すべての問題を一度に解決することはできません。まず最も重要な課題に取り組み、プロセスを信頼して進めましょう」と述べた。AGUの経験は、国際的な学会運営の新しいスタンダードを築く重要なケーススタディとなるだろう。

About Cheryl L. Enderlein, CAE

BA コミュニケーション学・ジャーナリズム専攻(ノースウェスタン大学セントポール校)
アクチュアリー協会(Society of Actuaries):ガバナンス・ボランティア管理シニアディレクター、ガバナンスディレクター、エグゼクティブアドミニストレーター(1994-2007)
リーダートレックス(LeaderTreks):パブリッシャー(2007-2008)
ランパートグローバル(Rampart Global):プログラムアナリスト(2008-2010)
アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union, AGU):リーダーシップ・ボランティアサービスディレクター(2010-2022)
アメリカ地球物理学連合(AGU):リーダーシップ・ガバナンス副会長(2022-現在)
ソン ウォンソ(Ph.D.)
アメリカ地球物理学連合 リーダーシップ・ガバナンス委員会委員
JpGUグローバル戦略委員会幹事
秀明大学学校教師学部 専任講師
