日本で生活していると、外国人に対して思わず「タメ口」を使ってしまう場面を見かけることがある。「難しい敬語より分かりやすく伝えたい」「親しみを込めたい」という意図から、フランクな言葉遣いを選ぶ場合もあるだろう。ところが、その相手が韓国人だった場合、思わぬところで不快感や違和感を抱かせてしまうかもしれない。韓国人は日本人以上に、言葉遣いから伝わる敬意の度合いに敏感だからである。
韓国では、初対面や年齢・地位に差がある場合、基本的に敬語を使うのが当然とされている。この慣習は社会生活のあらゆる場面に深く根付いており、お互いにある程度打ち解けるまでは敬語を崩すことは少ない。逆に、まだ関係が浅い段階で急にタメ口を使われると、「自分を軽んじられているのではないか」と感じる場合が多い。無論、タメ口が必ずしも相手を見下しているわけではない。
こうした文化的ギャップを埋めるためには、まず韓国人と接するときに敬語で話してみることを勧めたい。そのうえで、相手が「もっと気楽に話してほしい」と求めてきた場合に、タメ口へ移行すればよい。段階を踏んで言葉遣いを変えていくことで、相手への敬意が失われていないことを示すことができる。
韓国人側も、日本でよく耳にする「タメ口」が悪意や失礼の意図によるものではない場合が多いことを知る必要がある。どうしても不快に感じる場合は、「韓国では初対面や年上の人にタメ口を使われると驚いてしまう」というように、率直に理由を説明するのも一つの方法である。互いに背景を理解できれば、いきなりのタメ口による衝突を避けやすくなるはずだ。
結局のところ、言葉遣いは文化を映す鏡のようなものである。韓国人がタメ口に敏感なのは、相手を尊重する姿勢や礼儀を何よりも重視する社会的風土があるからにほかならない。異なる文化圏が円滑にコミュニケーションを行うためには、こうした言葉遣いの差異によって生じる感情を認識し合い、必要に応じて歩み寄る姿勢が求められるのではないだろうか。
ソン ウォンソ (Ph.D.)
秀明大学学校教師学部 専任講師
早稲田大学教育学部 非常勤講師
東京大学空間情報科学研究センター 客員研究員
