【コラム】急増する訪日外国人観光客の時代、東京の“本当の魅力”を味わうために

日本政府観光局(JNTO)の年間統計によれば、2019年に日本を訪れた外国人観光客は3,188万2,049人であったが、2024年には3,686万9,900人にまで増え、15.6%の伸びを示している。新型コロナウイルスによって一時は観光業界全体が沈滞したことを考えれば、これは驚異的な回復力と言える。国別に見ると、韓国からの訪日客は1位で、約558万人から約882万人へと57.9%も増加し、特に目立った伸びとなっている。一方、中国は約960万人から約735万人へと減少しているのが特徴的である。台湾や香港をはじめとするアジア圏はおおむね増加傾向にあり、アメリカやオーストラリアのように日本と遠い国・地域からの訪問客も多くなっている。

こうした国籍の多様化は、東京の街を歩くとより実感できる。ショッピングモールや有名飲食店の前には、早朝から長蛇の列ができることもしばしばである。しかし、滞在日数が限られている旅行者にとって、行列に多くの時間を費やしてしまうほど、肝心の東京の魅力を見いだせずに終わってしまう懸念がある。実際、「東京に来たはずなのに、写真を撮り、お土産を買っただけで終わった」という感想を抱いて帰国する人も少なくない。

東京は日本の象徴的な大都市であると同時に、重層的な文化が常に交錯する複合都市でもある。渋谷や原宿の若々しくエネルギッシュなカルチャー、東京駅丸の内周辺の近代建築と歴史的建築の混在、新宿の刺激的な街並み、洗練された空気感のある銀座・日本橋、下町情緒が漂う浅草、博物館や美術館が林立する上野など、どれもが同じ「東京」とは思えないほど異なる表情をもつ。にもかかわらず、多くの旅行者はSNSで話題のスポットや人気グルメのリストに頼りがちであり、その結果、長い行列に並ぶ時間が旅の大半を占めるという事態に陥りやすい。楽しみにしていた分だけ、その行列が原因で期待が急速にしぼんでしまうというケースも多いのではないだろうか。

そもそも日本は外食文化が成熟しており、チェーン店ではなくとも一定水準以上の味やサービスが期待できる国である。むしろ地元の人々が通うこぢんまりとした食堂や、少し値段の張る懐石料理店などを訪れてみると、日本独自の「おもてなし」の精神をより深く体感できるはずである。一度でもラーメン以外の選択肢として懐石料理を味わってみれば、“高価だから”という動機を超えた、日本ならではの繊細なサービスや細やかな気配りに驚くことだろう。

観光客が急増すると、「有名店ほど外国人観光客の比率が高くなる」という現象は避けられない面がある。そのため、現地の文化をもっと知りたいのであれば、ガイドブックやSNSのみを頼るのではなく、ホテルのスタッフや街で出会った人々に「地元の人はどこで食事をし、どこに行くのか」を尋ねる姿勢が重要である。日本語に自信がない場合でも、英語や身振り手振り、翻訳アプリなどを組み合わせれば、意外なほど丁寧に案内してくれる人に出会う可能性が高い。

2019年に比べて2024年にはこれほどまでに訪日客が増加しているという事実は、世界が再び日本の魅力に注目していることを示す指標である。同時に、それだけ旅行スタイルの変化が求められているとも言えよう。SNSに載せる写真のために何十分、何時間と行列に並ぶよりも、少しでも街を歩き、東京という都市の多層的な個性を探るほうが“本当の東京”に近づけるはずである。著名なスポットだけを巡って「東京は人混みで大変だった」という一面の印象で終わるのは、あまりにも惜しい。

「東京は混雑していて疲れる街」という先入観を抱く人は多いが、中心部から少し足を伸ばすだけで全く異なる雰囲気をもつエリアが数多く存在する。せっかくの旅行であれば、ちょっとした冒険をしてみる価値は十分にある。行き先がわからず道を尋ねたり、ふらりと見つけた食堂に入ったり、店主や隣の客と簡単な会話を交わすような体験こそが、旅行後もずっと心に残る“生きた思い出”になるのではないだろうか。

数字の上では歴史的な伸びを示している訪日外国人観光客であるが、最終的に一人ひとりが東京で何を見て、何を感じるかこそが“日本”という国の本質的な評価に直結すると言える。行列に疲れ果てて何も得られなかった、という残念な結果に終わるより、好奇心をもってもう一歩踏み込んでみることがかけがえのない旅の価値を育むのではないか。統計上の急増という事実だけでなく、その背後にある「旅人それぞれのストーリー」こそが、この都市の魅力をさらに豊かに描き出していくと信じたい。

ソン ウォンソ (Ph.D.)
秀明大学学校教師学部 専任講師
早稲田大学教育学部 非常勤講師
東京大学空間情報科学研究センター 客員研究員

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