人手不足が深刻化するなか、従業員の退職をきっかけに事業継続が困難となる企業が急増している。2024年に発生した人手不足倒産342件のうち、従業員や経営幹部の退職が直接・間接的な原因となった「従業員退職型」倒産は87件に達し、過去最多を更新した。前年(67件)から約3割増加し、これまで最多だった2019年(71件)を大幅に上回った。
業種別では「サービス業」が最も多く、31件と全体の35.6%を占めた。特に、ソフトウェア開発などのIT産業、人材派遣、美容室、老人福祉施設といった分野で従業員の定着率が低く、人手不足が倒産につながるケースが目立った。
次いで「建設業」(18件)では、設計者や施工監理者といった業務遂行に不可欠な資格保持者の退職による事業継続困難が顕著だった。「製造業」や「運輸・通信業」でも、初めて年間10件を超え、工場作業員やドライバーの退職が事業運営に大きな影響を及ぼした。
一方、長引く物価上昇により、賃上げを求める従業員の声は一層強まっている。大企業を中心に賃上げの動きが広がるなか、中小企業では「賃上げしたくてもできない」状況に陥るケースが多く、対応の二極化が進んでいる。
このような環境下で、賃上げや待遇改善が進まない企業に嫌気がさした役員や従業員が退職し、経営が行き詰まる「賃上げ難倒産」が2025年に増加する可能性が高まっている。特に転職市場では、好待遇を提示する企業が優秀な人材を囲い込む動きが加速しており、賃上げに対応できない企業の淘汰が一層進むことが予想される。
