[コラム] 韓国が女性STEM人材育成で急成長した理由―日本への示唆

日本と韓国は、最近まで科学技術分野における女性の参画促進という同じ課題に直面していた。国際ランキングでも、両国はジェンダー平等の観点からSTEM(科学・技術・工学・数学)分野で下位に並ぶことが多かった。しかし、この10年から20年の間に、韓国では女性科学者の数が目覚ましく増加し、日本との間に明確な差が生まれている。韓国の軌道を変えた要因は何だったのか。

転機となったのは、2002年に制定された「女性科学技術人育成支援法」である。この法律を背景に、韓国政府は女性研究者の採用・育成・定着を促進するための資金やリソースを積極的に投入し始めた。さらに、WISET(韓国女性科学技術人育成財団)という専門機関が設立され、メンター制度やキャリア復帰支援、広報活動など、実践的なプログラムを大学・研究機関・民間企業と連携して展開している。

法的根拠に基づく施策と、中央集権的かつ専門性の高い組織の相乗効果によって、韓国の研究環境は大きく変化した。出産や育児といったライフイベントを経ても、女性科学者が研究を続けやすくなるよう、資金や支援が充実した。また、社会全体が女性のSTEM参画を「異例」ではなく「当然かつ国益に資するもの」として受け入れるようになった。

一方、日本でも「女性活躍推進法」や「男女共同参画社会基本法」など、女性の社会進出を促す法整備は進んでいる。しかし、科学技術分野の女性に特化した包括的な法律や、WISETのような専門機関は存在しない。そのため、施策は断片的になりがちで、韓国のような一体的な推進力を持つには至っていない。

少子高齢化とイノベーションの必要性が高まる中、日本は韓国モデルから学ぶべき点が多い。法律がすべての障壁を一夜にして解決するわけではないが、政策や資金、組織的なコミットメントを一元的に推進する基盤となる。韓国の進展は、政府による持続的な支援が、女性のSTEM分野への参画やキャリア継続、リーダーシップ獲得への道を切り拓くことを証明している。

韓国の事例は、決して「他国の成功物語」にとどまらない。日本が科学技術力を維持・強化するうえで、実践的なヒントに満ちている。重要なのは、強力な法整備と十分なリソースを持つ中央組織が、社会の意識と制度を変革し、女性が科学技術分野で活躍できる土壌を作り出すという点である。

ソン ウォンソ(Wonsuh Song, Ph.D.)
秀明大学 専任講師 / JpGU ダイバーシティ推進委員会委員

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