まつげは多くの女性にとって「顔の額縁」とも呼ばれる。豊かな頭髪が男性の自尊心を支えるなら、長く濃く上向きにカールしたまつげは女性に同じ役割を果たしてきた。十数年にわたりサロンを席巻したのは、人工毛を一本一本接着する高難度のエクステであり、熟練技術者でも四十分から六十分を要した。ところが近年、「超簡便まつげパーマ(ラッシュリフト)」が静かに、しかし確実に現場を塗り替えている。筆者が実際に体験して感じた変化は、時間・コスト・顧客体験の三つの側面にくっきり現れた。
まず体感できるのは時間だ。シリコンシールドや櫛状パッドでまつげを一括固定し、一剤・二剤を順に塗布すれば、技術者が手を動かすのはわずか二〜三分。残りは薬剤が反応する十五分程度を待つだけで、来店から退店まで二十分強に収まる。美容が多忙な日常の「すき間時間」に組み込めるようになったわけだ。
時間短縮はそのままコスト構造の再編を促す。高価な人工毛資材は不要になり、薬剤量も頭髪パーマに比べ極微量で済む。サロンは回転率を高めつつ価格を五千円台から二千円台へと下げ、月一メンテナンスを敬遠していた客層を呼び戻した。ネイルや眉ワックスなどマイクロサービスとのパッケージ化も容易になり、客単価戦略は一層柔軟だ。
とりわけ目を引くのは施術体験そのものの再定義である。涙がにじんだりライトが眩しかったりした過去の不快感は消え、マッサージチェアに身を預け目を閉じていれば終了する。美容は本質的に「心の休息」を売る行為だ。技術・ツール・空間デザインが相乗してUXを高めた今回の進化は、マイクロビューティー全般のベンチマークとなる。
もっとも、課題がないわけではない。第一にサステナビリティ——薬剤成分の安全性と環境規制を先取りする姿勢が欠かせない。第二に標準化教育——施術時間の短縮が参入障壁を下げる以上、技術格差を埋めるカリキュラムが求められる。第三にデータ活用——眼形・毛質・アレルギー情報を蓄積し、最適なカール角度やケア周期を提案するビューティーテック連携が競争力を左右する。
小さなまつげから始まった変革が、美容業界全体のプロセス・価格・体験を書き換えつつある。「より速く、より安く、より快適に」という三拍子の革新が、さらなる波を呼び込むのは間違いない。
ソン・ウォンソ(Ph.D.)
秀明大学 専任講師/NKNGO Forum 代表

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