日本開催の学会に参加した米国の教授とポスドク時代の上司を交えて語り合った。話題の中心は「閉じる社会」である。米国では新政権発足後、気候変動や多様性、ジェンダー平等を扱う研究費が審査途中で打ち切られる事例が相次ぐ。NSF内部では政治的介入が査読を覆す異例の事態と証言されている。
さらに、F‑1学生ビザを最長4年に制限する案が再浮上し、大学院では内国人のみを受け入れるよう圧力がかかっている。研究室は課題名を言い換え、内容を修正して検閲を回避せざるを得ない状況である。その結果、インドや中国からの留学生に依存してきた博士課程の供給網が断たれれば、米国発イノベーションの循環は失速しかねない。
一方、日本では週末の選挙で「日本ファースト」を掲げる極右政党・参政党が14議席を獲得し、与党連立は参議院の過半数を失った。しかし日本の現実は外国人抜きでは立ち行かない。人口の3 %にすぎない外国人が、介護や外食など労働条件の厳しい現場では2割近くを占めている。移民制限は高齢社会を支える基盤を直撃する危険が大きい。
米国の研究検閲も、日本の排外主義も、いずれも「自国優先」の政治が科学と経済の協働システムを切り崩す矛盾を示す。地球規模の課題に国境は通用せず、人材と知識の自由な往来こそが社会の持続を可能にする鍵である。学術界と市民社会は政策変化を記録し、開かれた知の流通を守る連帯を強めねばならない。閉塞の時代こそ、開放は理想ではなく生存戦略である。
ソン ウォンソ(Wonsuh Song, Ph.D.)
秀明大学 専任講師 / NKNGO Forum 代表
