[コラム] 「人口比で世界一の“日本訪問率”を誇る香港─なぜ彼らは日本を選ぶのか?」

香港の人々は、世界のどの地域よりも人口比で最も多く日本を訪れている。2024年のデータによれば、3人に1人が日本に足を運んだ計算だ。単に「旅行好き」と言ってしまえばそれまでだが、実はそこに香港ならではの文化的・経済的背景が潜んでいるように思える。

先日、筆者は香港を訪れる機会を得た。現地で感じたのは「音と色に満ちた街」だ。至る所に乱立する看板、それぞれがカラフルで主張が強いフォントをあしらっている。エスカレーターからはピーピーと高めの音が止むことなく鳴り響く。これまで日本で慣れ親しんだ、整然と静かな街の光景とはまるで正反対の印象だった。

そして驚いたのが、想像以上に高い物価である。市場やローカルな屋台を除けば、ファストフードすら日本の倍ほどの値段がつく場合も珍しくなかった。ブランド品やお土産品に至っては、安いどころか日本より割高に感じるケースも多い。結果的に今回の滞在では買い物に積極的になれず、「この値段なら日本で二食はいけるのでは?」と考えてしまう場面ばかりだった。

では、香港の人々が日本を訪れる際にはどんな感覚になるのだろうか。にぎやかすぎるほど活気に満ちた香港の暮らしと対比すれば、日本は「静かで落ち着きがあり、安定した」空間に映るはずだ。徹底的に整理された街並み、無駄のないモノトーン寄りの配色、そして細やかな行列マナーは、香港の熱量にあふれた風景とは対照的だろう。

さらに香港と比べると、日本の物価はかなり“安い”。長らく続いた経済の停滞と円安が進行するなかで、海外から見る日本のコストパフォーマンスは一層魅力的に映る。日本のドラッグストアやアパレルショップで大量に買い込む香港人観光客の姿をよく見かけるが、実際に香港の物価を体験すると、それも納得せざるを得ない。

もちろん、これは香港に限った話ではない。イギリスなど欧米からの旅行者たちも「日本が安く感じられる」と口をそろえる。円安による価格差や「質の割にリーズナブル」という日本のイメージが、外国人観光客の購買意欲を一層かき立てているのだ。海外からの消費で日本の経済が潤うのはありがたいが、長い目で見ると、円安が日本の基礎的な経済力をむしばむのではないかという懸念もある。

それでもなお、世界各地から日本を訪れる人が絶えないのは、「日本でしか味わえない魅力」がやはり大きいからだろう。香港の喧騒と比較すれば、日本の静けさや細やかな配慮、そして“相対的に手頃な価格帯”は新鮮に映るに違いない。逆に、日本人が香港を訪れれば、目がチカチカするほどの看板や圧倒的な人波など、日本の日常では得られないパワーに驚き、新たな刺激を受ける。お互いが「正反対の世界」を知るからこそ、そのギャップに面白さを見いだすのだ。

同じアジア圏とはいえ、都市構造や経済環境、人々のライフスタイルはこれほど違う。だからこそ、双方に「体験してみたい」「行ってみたい」という欲求が生まれ、旅行という形で行き来が絶えないのだろう。円安がこの先どう変動するにせよ、香港をはじめ海外からの旅行客が日本で感じる自由さやショッピングの楽しさ、文化的な新鮮味はそうそう色褪せるものではない。一方で、日本人が香港で味わう圧倒的な熱気や雑踏の活力も、日本の穏やかな日常では代えがたいものだ。

互いの「正反対」を体験し合い、その差異に刺激を受けるからこそ、旅は面白い。そしてその交流が積み重なることで、香港と日本の距離はより近くなる。今後も両者の往来が活発に続き、お互いの文化や価値観をより深く理解し合えるようになることを願ってやまない。

ソン ウォンソ(Ph.D.)
秀明大学専任講師/NKNGO Forum代表
https://geographersong.jp/about/

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