文在寅前大統領の回顧録『辺境から中心へ』外交安保編で、在任中の対日関係をめぐる認識が詳細に示され、日本政府の対応に対する強い不満が明らかになった。
文氏は、平昌五輪を契機とした南北対話の局面で、当時の安倍晋三首相が韓米合同軍事演習の継続や対北制裁の維持を強く主張し、事実上内政干渉に近い姿勢を取ったと指摘した。両首脳の立場は大きく隔たり、会談は形式的なものにとどまったとしている。
拉致問題については、日本側の要請を受け入れ、金正恩朝鮮労働党委員長に繰り返し伝達したと説明した。一方で金委員長は、日本が直接対話せず韓国を通じて意思を伝えることに疑問を示したという。
米朝交渉をめぐっても、安倍氏が短距離弾道ミサイルや生物・化学兵器の問題を非核化議題に含めるよう主張し、交渉の障害となったと評価した。さらに、当時のボルトン米大統領補佐官の強硬姿勢についても、日本側の主張を代弁していたと指摘した。
2017年の緊張局面では、日本側が韓米日合同訓練の実施や在韓日本人の退避訓練を提起し、不安を助長したとも批判した。南北関係改善への配慮が欠けていたとの認識を示している。
いわゆる徴用工問題をめぐっては、韓国大法院判決を尊重しつつ、1965年の日韓請求権協定の維持や被害者中心の解決など「五原則」を提示したと説明した。強制執行に至らない解決策として、韓日企業が参加する共同基金案を検討したが、日本政府は受け入れなかったとした。
その後の日本による半導体素材の輸出規制については、事実上の報復措置と位置づけたうえで、韓国側は国産化や調達先の多角化を進め、結果的に産業競争力の強化につながったと強調した。日本企業にも影響が及び、国内では政策批判が出たと主張している。
また、大阪G20での対応や終戦宣言への日本側の反対などにも言及し、日本の外交姿勢に対する不信感を示した。バイデン政権下では米国も日韓対立の解消に関与し、共同基金に米国も参加する案が提示されたが、日本はこれも拒否したとしている。
回顧録は、南北・米朝対話が進展する過程で日本が消極的または否定的な役割を果たしたとの認識を示す内容となっており、当時の東アジア外交をめぐる認識の相違が改めて浮き彫りとなった。
